展示レポート
秋山裕野 個展「—白の向こうに—」
2018年3月に開催された、秋山裕野 氏の個展「—白の向こうに—」のレポートです。
秋山氏は1995年、東京生まれ。2013年に都立総合芸術高校(日本画専攻)を卒業し、現在 金沢美術工芸大学工芸科陶磁コースに在学しています。陶磁器に絵を描いた平面作品を主に制作しており、古美術コレクターでもあります。
本展は秋山氏の初個展になります。なぜ紙ではなくやきものに絵を描くのか。秋山氏は制作を行う中で「やきものの世界」を発見したと言います。日常的に使う椀から美術館にある名品まで、一直線に繋がっている世界を。
そんな、やきものの向こうの「白の世界」が表現されます。
展示のようす
▲「もうひとつの世界」という作品は3点展示されていました。額に見える部分も全てやきもので作られています。型を用いて成型しているため、割れやすく焼くのが難しかったそうです。
▲町中で頭上を見あげると、電線越しの空が見える。そんな日常の景色が描かれています。秋山氏はきわめて日常的なモチーフを、焼き物に描いています。
陶磁器には昔から、植物や動物など身近なものが描かれてきました。そこで、現在身近な存在である電線や鉄塔などをモチーフに選んだそうです。
▲スーパーなどに並んでいそうな、あさりのパッケージ。プラスチックの透明感、瑞々しさを放つ貝殻の濃淡など、繊細な表現力に息を呑みます。また、やきものに平然と描かれている様子はどこかユーモア的でもあります。
中央の辺りに広がる粒子のような突起、これは偶然ついたものだそうです。パッケージに付着した水滴、あるいはスーパーや市場の喧騒を感じさせるようです。
▲壁には小品が並べられていました。手のひらより大きいくらいのサイズで、やきもの特有の柔らかな描写から、とてもかわいらしい印象を受けます。手前の松の作品は、緑色の部分に日本画で用いられる岩絵の具が使われています。しかしそのままでは焼くときに蒸発してしまうため、粘土を利用して防いでいるそうです。
▲ひび割れた鏡面から別世界を覗くような、不揃いの形を与えられ無造作に配置された作品たち。人によって見る世界が異なり、たくさんの世界が存在するように、陶器の中にも世界があるのではないか。そのようなイメージで制作が行われました。
欠片の向こう側に広がる景色。手を伸ばせば届きそうなほど近く、しかし途方もなく遠くのようにも感じる、そんなぼんやりとした不思議な存在感を覚えます。
▲右側に広がる「並行世界残欠」は、来場者に一部プレゼントとして配布されました。私も運よく頂くことができ、赤い鉄塔の作品を選びました。裏側には壁掛け用の留め具が付いており、ずっしりとした存在感のある一品です。
▲会場の一角では食器が展示されていました。この板皿は水面をイメージして作られたもので、コバルトと銅が用いられています。
秋山氏は絵画的な陶磁器作品をメインに作っていますが「実用性のある作品は?」という要望から、器も同時に作っています。
秋山氏は高校生の時分、日本画を描いていました。そこから漆を勉強するなど紆余曲折を経て、陶芸を行うようになったそうです。しかしその中でも「平面作品の世界を探求する」という想いは一貫しており、陶磁技法を用いた絵画へと行き着きました。
本来、食器や花瓶など陶磁器は実用的な役割を持っています。実用性を取り去った絵画としてのやきもの。秋山氏が発見したという「やきものの世界」。
今まで誰も気づくことのできなかったその場所に、静謐とした美しいタッチで導いてくれるような。陶磁器の新たな可能性を提示し、新たな体験を運んでくれるような忘れられない展示でした。
展示情報
展示名: —白の向こうに—
作家:秋山裕野(アキヤマヒロノ)|Instagram・Tumblr(ポートフォリオ)・Twitter・Facebook
期間:2018年3月19日(月)~3月24日(土)
展示場所:純画廊
所在地:東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル2F