展示レポート
眞鍋惠美子 個展 | Between the Lines
2017年9月に開催された、画家・眞鍋惠美子 氏の個展「Between the Lines」です。氏は80年代後半から独学で絵画をはじめ、初期の頃は油彩を中心に作品制作を行っていました。しかし活動を続ける中で、油彩、アクリル、水彩、パステル、コラージュなど、様々な表現技法を模索し続けます。
90年代後半からは展示活動をコンスタントに行い、個展は今回で34回目となります。2000年代からは美術会の運営委員として展覧会の開催などを企画するかたわら、画家としての活動も並行して行います。
2000年頃に和紙、墨と出会ってからは、素材の特性を生かしたモノクロ表現を追求、また様々な技法と組み合わせた作品を発表するなど、表現の可能性を追い求める姿勢は現在も貫かれています。
氏は当初、音楽や建築・歴史などをテーマに作品制作を行っていました。しかし、9.11(アメリカ同時多発テロ事件 2001/9/11)以降は崩壊が主なテーマとなっており、政権交代や戦争など、社会情勢に基づいたメッセージが込められた作品が多くを占めるようになります。
作品制作、個展を繰り返す中で、近年のテーマは宇宙です。社会、国という枠を超えて、はるか上空から地球を俯瞰する。
すると身の回りの出来事や、社会を揺るがすような事件でさえすべてが小さいものだと実感する。そうして争うことの愚かさに気が付けば、誰もが相手の気持ちを理解することの大切さに気付くのではないか。
今回の展示では、そのような宇宙的な視点、メッセージが込められた作品が並びます。氏は現在、連日のようにコラージュ作品を制作し、さらなる絵画表現を探求しています。世の中のあらゆる動向を考察し、自身と向き合いながら、そのテーマは止まることなく変化を重ねていくのです。
展示のようす
鑑賞後記
会場に足を踏み入れ最初に驚いたことは、作品によって技法や色使いが様々で、表現が多岐に渡るということでした。現在ほぼ毎日のように制作を行っているというコラージュ作品では、鮮やかな色が無造作な形に切り取られ、ステップを踏むような自由な線で区切られています。様々な模様や柄を持った色、これらがタイルのように並ぶ中、目を惹かれたのは大胆に用いられた空白でした。
氏の主要なテーマとして「音楽」があります。素晴らしい音楽は無暗に音符を敷き詰めるのではなく、空白さえ耳に残るものに演出してしまいます。
コラージュ作品は、一見すると画面から飛び出してきそうなほど無邪気な配置にも関わらず、不安定というより、むしろ見る者を落ち着かせる安定した雰囲気が宿っていると感じます。これは氏が長年にわたり無意識に培ってきた音楽的なセンス、空白がもたらすハーモニーの影響なのかもしれません。
宇宙をテーマとした絵画作品「異次元からのメッセージ」「Space」には、はるか上空から地球を俯瞰すれば、地上で起こっているあらゆることが小さく、争うことなど無意味である。という意義が込められています。
「Space」は空から見下ろした空中写真のようで、荒廃した都市のような退廃的な雰囲気があります。モノクロ絵画にも関わらず、判で押した模様のような集合、さび付いた鉄のようなかすれ、押し付けるような重厚な質感、など様々な表現に富み、なおかつ違和感なく一枚の絵に収まっていることにも高い技術を感じます。
「異次元からのメッセージ」は、1974年にアレシボ天文台から約2万5000光年先のM13星団へ送信された、通称「アレシボ・メッセージ」を想起させました。以後、幾度にも渡って発信された宇宙へのメッセージ。
この作品は、あくなき探求心で観測を続ける人類に向けた、「今一度、己を見つめ返せ」という地球外生命体からの回答なのではないか。そんな想像を巡らさずにはいられませんでした。
「Between the Lines」は、氏が和紙・墨と出会ってから追求し続けたという、モノクロ表現の現在の到達点です。作品は一枚一枚が独立して生み出されたものではなく、複数枚に渡って連続して描かれることにより、独特の力強い筆致が表現されます。
テーマ性の深い氏の作品は、純粋に抽象画として鑑賞しても、見る者を世界に閉じ込めてしまう魅力があります。
会場で氏にお話をうかがう中で、あらゆることが加速度的に変貌を遂げていく世の中でも、宇宙的な視点で見つめ直し、すべてが些細なことであると気づけば、目の前のことに流されず自分を保つことができる。という大切な生きる術を教えていただいたようでした。
展示情報
展示名:Between the Lines
作家:眞鍋惠美子
期間:2017年9月28日(木)~10月4日(水)12:00~19:00 最終日17:00まで
展示場所:ギャルリーラー(銀座奥野ビル)
最寄り駅:有楽町駅、銀座一丁目駅
所在地:東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル601
関連記事
2018年9月に開催された個展「異次元からのメッセージ」のレポート記事です。