展示レポート
石井七歩 個展「- Her name is Metropolis -」
2018年6~7月にかけて開催された、石井七歩 氏の個展「– Her name is Metropolis –」のレポートです。石井氏は1991年、東京都出身。2010年から街や生き物をテーマとした作品を制作しています。
2012年に青森県立美術館で開催された特別展「超群島 -ライト・オブ・サイレンス」で美術館デビューを果たし、近年では銀座 中銀カプセルタワー での個展や 六本木アートナイト2017、道後オンセナート2018 に出展するなど、多岐にわたる活動・パフォーマンスを行っています。
本展は現代アートのオンラインギャラリーである tagboat と阪急メンズ東京 のコラボレーションによって生まれたギャラリー「tagboat × hankyu MEN’s GALLERY」で開催されました。
石井氏が2018年から新たに制作を始めた赤のシリーズをメインに、大型絵画・彫刻作品などが展示されました。
展示のようす
▲2018年3月から新たに制作を開始した、赤を基調とした作品シリーズです。
石井氏は「都市と人間の姿が、ひとつの肉体のようにしてイメージされる」と語っており、街を肉体の像として描いておきたい。という意志が込められています。
▲重厚に額装された鏡を、四方から覆い尽くすように群がる赤。
半透明の奥行きを感じさせる色合い、散るように配置された姿が、枝分かれする枝葉のように増殖していく様子を想像させます。
▲「IDEAL WORLD(理想的な世界)」とは石井氏が最初に描き始めた作品シリーズで、本作は俵屋宗達作「風神雷神図」を参照に2017年に描かれた絵画作品です。
対峙する風神と雷神、その中心で彼らを見つめる鑑賞者。この三者による構図を元に制作が行われました。
▲ブロックのような四角い形状は、アーチ窓を有した古代の建築物をモチーフとしています。
また複雑に折り重なったレースのような模様は、自然界の様々な場所で見られるフラクタル構造であり、有限の紙面に無限の表面積を持つ形状を描くことで、果てしなく広がる世界観を表現しています。
▲イギリスのSF作家 J・G・バラード の著作「結晶世界」からイメージされた彫刻作品です。
石井氏は自らが育った団地風景を「どこまでも四角い細胞のような住居がつづく、無機質な団地風景」と語っています。各部屋からあふれ出る血潮のような赤は、そんな印象が込められているのかもしれません。
▲信号機をモチーフとした彫刻作品。一切を拒絶するように、ぼんやりとした光を放つ赤灯。
流れを制御するはずの機械が、人々の意志を離れて壊れながら増殖を繰り返すような、退廃的な世界観を感じます。
人々が作り上げてきた様々な建造物。それらが寄り集まって都市となり、各所に機能を有すことによって、やがて人々の流れに影響を与えるようになります。
個人の視点で都市を内部から見つめるのではなく、広大な空間として、あるいは時間を圧縮して俯瞰することで、人間と都市の関係が必ずしも一方通行ではない。ということに気づくのではないか。
あまりにありふれた景色ゆえ思い至ることができなかった視点。このような気づきをもたらしてくれたのが、都市で生まれ、無機質な風景の中で育ってきた石井氏であることに、驚きを感じずにはいられない素晴らしい展示でした。
展示情報
展示名:- Her name is Metropolis –
作家:石井七歩(イシイナホ)|Official Web・Facebook・Twitter
期間:2018年6月27日~7月31日
展示場所:阪急メンズ東京
所在地:東京都千代田区有楽町2丁目5−1