展示レポート
見崎彰広 個展「時間のかたち」
2018年7月に開催された、見崎彰広 氏の個展「時間のかたち」のレポートです。
見崎氏は1987年東京都生まれ。東京藝術大学では日本画を専攻しており、卒業後にリトグラフの制作を始めます。並行してドローイング作品も描いており、2012年からは文章と図画を用いた本の制作にも取り組んでいます。
都内を中心に展示活動を行っており、不忍画廊では2015年頃からグループ展などに出展しています。本展ではリトグラフ作品のほか、ドローイングによる新作6点などが出品されます。
展示のようす
奥行きを感じさせる黒色に目を奪われます。リトグラフという技法の性質上、通常の黒だけではこのような深い闇を表現するのは難しいそうです。
そのため見崎氏は、黒の上から更に透明の素材を塗り重ね、静謐とした印象をもたらす濃い闇を表現しています。
会場奥に展示されたドローイング作品。これらは10Bという非常に柔らかい鉛筆で描かれていますが、単に塗りつぶしただけでは、どれだけ濃く塗り重ねようとも筆跡が残ってしまいます。
そのため仕上げに端から縦線を引いていくことで、筆跡を目立たなくしています。特に「天使(左)」のような作品では、自然なグラデーションを描くのに高い技術が求められるそうです。
解説・鑑賞後記
見崎氏は、日常生活の中で出会う小さな感動やひらめき、新しい知識からイメージを膨らませて作品制作を行っています。テーマのひとつである”光と影”。作品のほとんどがモノトーンで描かれているのは、明暗の描写に集中し、できるだけシンプルに描くためです。
絵画を構成する素材や物質など、物としての感触が取り去られた作品たち。奥行きを感じさせる深い闇、明滅を繰り返しながら揺らめくような繊細な光。
紙の上にぽっかりと穴が空き、そこから向こう側を覗くような視覚に迫るリアリティ。平面的で寂しげな、しかしどこか丸みを帯びていて可愛らしい描写は、ぼんやりとした記憶をたどるような幻想的な雰囲気を放ちます。
しかしよくよく見ていると、それらは日常においてふと目にする瞬間であることに気づき、はっとさせられると共に、その詩的とも言える独特の表現に息を呑みます。
刻々と変わりゆく光と影を、閉じ込めてしまったかのような繊細な描写。明暗の狭間からしっとりとした音が響いてくるような、美しく印象的な展示でした。
展示情報
展示名:時間のかたち
作家:見崎彰広(ミサキアキヒロ)|Official Web・Twitter
期間:2018年7月17日(火)~8月4日(土)