展示レポート
重野克明 個展|ザ・テレビジョン
展示のようす
本展のテーマは「テレビ」です。壁際にずらりと並べられた水墨作品は、重野氏の自宅の一室が描かれています。
2017年の夏から年末の紅白歌合戦まで、合計60点近くの作品が制作されました。
その中から抜粋された作品が、写真奥から時系列順に並べられています。
いずれの作品もテレビを中心として描かれています。
ちゃぶ台や雑貨から、何気ない生活の様子が浮かび上がるようで、昭和にタイムスリップしたかのような不思議な懐かしさを感じます。
作品が表しているとおり、自宅の襖にも実際に絵が描かれているそうです。
物の位置など部屋の様子は常に変わっていくため、作品はどれも短時間で制作されています。
同じ部屋にも関わらず絵の雰囲気が異なるのは、描いた時間帯や季節などが異なったり、
照明の笠が壊れてしまうなどの環境に変化があったためです。
冊子作品です。様々な種類の紙がまとめて製本されており、1ページ1ページ直筆で絵や文章が書かれています。
会場には3点冊子作品が置かれ、許可を得た上で中を見ることができました。
水墨作品の他には、銅版画が多く展示されていました。
短時間で描きあげられる水墨画とは違い、構想を練った上で制作を行うそうです。
プレス機を楽しそうに扱う女性は、深夜ドラマに出てきた女優(銅版画家役)がモデルになっています。
重野氏の自宅にある椅子です。水墨作品にも描かれています。
今回は叶いませんでしたが、許可を得て座ることができたそうなので、次回機会があればぜひ腰を下ろしてみたいと思います。
作品が一直線に並ぶ景色は、美しく壮観です。
夏から冬へ。移りゆく季節、変わりゆく部屋の情景がアニメーションのように頭のなかで流れていく。
そんな不思議な感覚がしました。
解説・鑑賞後記
2018年1月にで開催された、重野克明 氏の個展です。重野氏は1975年、千葉県生まれ。2001年に東京芸術大学を卒業し、2003年に東京芸術大学大学院を修了しています。
2000年頃から展示活動を多数行い、現在は茨城県で制作を行っています。美術画廊Xでは4回目の個展となり、約60展の作品が展示されました。
タイトル「ザ・テレビジョン」の通り、本展のテーマはテレビです。制作を行わなければならないにも関わらず、夏の高校野球から目が離せない。そんな折、テレビを見ながらテレビを描いたことから、テーマが決まったそうです。
時間を経て色あせたような、独特の空気を漂わせる作品たち。一見すると力強くスピーディーなタッチに思えますが、食器や雑貨、画面に描かれた人物など細かな点を見ていくと、実に丁寧に特徴をとらえて描かれていることが分かります。
襖やTシャツに描かれた絵、床に投げ出された置物など、見れば見るほど新たな発見があるようで飽きません。墨の濃淡によって描かれた、音や臭いさえ伝わってくるような臨場感のある風景。テレビを中心とした部屋の一角であるにも関わらず、絵画を超えて温かみのある世界がどこまでも広がっていくような、そんな想像を巡らさずにはいられませんでした。
重野氏はテレビを、部屋の中で唯一外(世界)と繋ぐものであり、それゆえ部屋の主役になってしまう、と話します。インターネットが日常に浸透する昨今、テレビは興味がない情報も自動的に流してくれる。だからこそ健全なのではないか。と重野氏は述べます。
インターネットがメディアの主流となりつつある今、テレビを視聴しない方も珍しくはありません。日常的にネットに触れていると、インターネットこそが万能ツールであり、テレビを見る必要はない。と思いそうになることもあります。
しかしインターネットで目にする情報は、ほとんどが自ら選択した情報です。どんなに幅広い物事に興味を抱いていたとしても、能動的に情報を入手していく以上、必ず偏りが生じてしまいます。そんな時に、世界と自らをつなげる力を持っているのは、やはりテレビなのではないでしょうか。
重野氏の「テレビはインターネットなんかよりも健全だなと思う」という言葉からは、そのようなことを考えさせられます。
一列に並んだ水墨画を時系列順に眺めていくと、過ぎていく日々を実際に部屋の中で過ごしたような気がしてきます。次の作品、次の作品……と進んでいくうちに、得も言われぬ懐かしさに包まれ、作品から離れるのを異様に寂しく感じてしまう。
そんな不思議な体験をもたらしてくれる、素晴らしい展示でした。
展示情報
展示名:ザ・テレビジョン
作家:重野克明(シゲノカツアキ)
期間:2018年1月10日(水)~1月29日(月)
展示場所:日本橋タカシマヤ 6階 美術画廊X
最寄り駅:東京
所在地:東京都中央区日本橋2丁目4番1号